『氷の解けるまで(11話)』大前しでん小説

「では、お父さん一体これまで何があったのですか?」

そこへ圭子が不安がって口を挟んでくる。

「お父さん、私ね母さんが亡くなったことや、その事が原因で死のうとしたことみんな含めて謝らせてもらいたくて勿論謝ったところで母さんは戻ってはこないけど、それを承知で今日は決意してるんです。

だから、お父さんも伝えたいことがあれば包み隠さず私達に全て言って欲しいのよ」

「解ったよ、一度母さんにお参りしてから話にするとしょうか。

圭子、日本茶を頼む」

それから、十分ほどしてだろうか

ようやくお父さんが振り絞るような低い声で話を始めた。

「私は亡くなった祖父の勧めで中学を卒業してから今日まで宮大工の世界に足を踏み入れ生業としてきた。

君らは知らんかも知れんが神社仏閣の補修を手掛ける仕事でこの辺は田舎なのでそう言うものとの縁の多い地域でもあり需要も多い、やがて私は神を崇める由緒正しい聖なる地を守る仕事に誇りを持つようになり強い使命感を抱くようになった。

今から二十年前は今のようにパソコンや携帯電話の普及も無くアナログの時代で手に職を付けたがる宮大工を目指した若き担い手も多く存在して業界自体も明るくて随分と活気付いていたものだ。

それに優秀で真面目な奴が多かった。

そして、仕事のことになると途端に心は鬼だ。神仏の宿る住まいを守る執念、真剣勝負の夜叉の精神を持つ頑固でこだわりの塊を持った鬼に変貌するんだよ。

決してお祀りするものに失礼があってはならない、その反面神々しい魂との触れ合いに心は清められ人として生命を享受され尊く生かされている有り難味を自覚した宮大工の気質の宿った守護鬼になっていくんだよ。

おまえ達に解るかな?」

「すみません、何となく解るような気がしますが中途半端でして」

< 続く>