『氷の解けるまで(3話)』大前しでん小説

そうやって、日々行う一方通行の魂と心の触れ合いにも終焉が訪れるのだった。

今、思うとこのような父の習慣や細かい一つ一つの所作を気にするようになったのは「全部あの日から始まったのだ」と圭子は落胆し今でも心が締めつけられる思いがするのである。どうしてこんな時期が訪れるまで互いの心の丈を打ち明けずにきてしまったのだろうか?月末の日曜が近かずくにつれ自らが後回しにしてきた過去を悔い改める思いで塞ぎ込む圭子であった。

 その実、そう考えるきっかけとなったのも先週の人志とのデートで正式にプロポーズを受け父に直接会って挨拶したいとの人志の強い要望から始まったことが発端であった。

圭子自身も結婚を前提にお付き合いするのだから自分の生い立ちに隠し事は有ってはならないと考えてはいたので極めてシンプルに彼の要望を受け入れ、父と複雑に絡み合ったか細い糸を切れないようにゆっくりとほどいていって包み隠さず打ち明けていこうと決意しようとしていた。

だが、いざ母さんの事を語るとなると正直にはもう少しだけ時間が欲しいと思う躊躇したい気持ちも強かった。

けれど結局、愛する人志君にだけは少しでも早く正直な自分をさらけ出さなければならないと強く言い聞かせ勇気を振り絞って打ち明ける自分に気持ちの整理がつき重い振り子がようやく傾いたのだった。

けれど、どうしても人志君の力を借りることが前提だった。

そして、これまで面と向かって言ってこれなかった母さんの亡くなった経緯に関することへの反省と父を孤独で不幸に陥らしてしまったことの謝罪を正式に行うのである。

それに、父の気持ちを思い計ってみても過去に起こした私の過ちに対して、これから身勝手な人生に踏み出そうとする娘の姿に対して説教のひとつもあることだろうと心中複雑にストレスを抱えた父の思いも勘案し覚悟していたのであった。

< 続く >