『互いの面影(8話)』大前しでん小説

「えっ、そうなんやね。          

あなたもあのトイレに行かなくなるんやね。せっかく綺麗なトイレに生まれ変わるのに。

でも栄転やろから頑張ってね。また、そっちのトイレ掃除のおばちゃんとおしゃべりして下さいな」

「あの、時間があるようでしたら直ぐに戻りますので暫くどこかで待って居てもらえますか?」

「えっ、どうしたん? 時間は買い物ついでに遊びに来たので問題ないんだけど」 

「そうですか。それは良かった。
そしたら、あそこのインフォメーションルームの横にベンチがあるのでそちらですみませんが待っていて頂けませんか?直ぐに戻りますんで」

これは困った。

今日しか会えないことになりそうだ。

こっちも気持ちのうえで色々と癒してもらっておいて病気と訊いて『それでは、さようなら』だけで済ます訳にはいかない。

何か気の利いたプレゼントをしなくては。

それにしても、私生活があんなにお洒落な方だとは夢にも思わなかった。

さて、何をプレゼントするべきか。

『エプロン』は?普通過ぎる。

『指輪』では?そんな関係でない。

『靴』などは?サイズがわからない。

こうなったら仕方ないのでプロに指南を受けることにしょう。

「店員さん、少しすみません」

「はい、いらっしゃいませ

何かお探しでしょうか」     

「はい、少し困ってましてご婦人にプレゼントを考えているのですが」

「おいくつの方ですか」

歳など解らない。

こうなったら見た目の勘でいくしかない。

「六〇代後半くらいのような感じなのです」

「そうですか?そうですね、」

「あの、何のサイズも解らないのでサイズに影響されないものでお願いします」

「はい、承知しました」

(互いの面影 続く)