『名馬の願い』 読む法話 日常茶飯寺 vol.73

新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。今年は干支でいうと「午年」。

なんと、お釈迦さまは前世で馬だった時があったと「ジャータカ物語」という仏典に伝えられています。そのエピソードをご紹介させていただきます。


 昔、インドのバーラーナシーの王宮に1頭の馬が飼われていました。1日のうちに千里を走るといわれるほどの名馬でした。ブラフマダッタ王はこの馬を何よりの宝として大切にし、たいそうかわいがっていました。

その頃、周囲の国々では争いが絶えず、自国を大きくしようとする諸国の王たちは、あちこちで戦争を繰り広げていました。
ある時、周辺の七つの国の王たちが共謀して軍隊でバーラーナシーの王宮を包囲して、明け渡しを迫りました。

王は早速大臣たちを集めて相談しました。
「戦争を起こせば双方に多数の死者を出すことになる。何とかおさめられないものだろうか」

一人の大臣が進み出て言いました。

「王さま、私の家に遠い国から来た騎士が一人滞在しております。なかなかの勇者で戦争にかけては並々ならぬ経験と知識を持っております。その者を呼び出し、意見を求めたらいかがでしょうか」
王は、その騎士を呼んで来させて尋ねました。
「この国は七つの国の軍隊に包囲されてしまったが、どうすれば良いか意見を聞かせてほしい」
騎士は腰をかがめ、目礼して言いました。
「王さまが大切にしてらっしゃるあの名馬を私にお与えくだされば、7国の軍勢を打ち破ってご覧に入れます」

王さまは騎士の言葉を信じて名馬を授けることにしました。

騎士と名馬は一体となって駆けました。たちどころに第1陣営を破り、敵の王を生け捕りにすると、第2、第3、第4、第5の陣営を打ち破り、それぞれの王を生け捕りにしました。しかし、第6の要塞を打ち破って、6人目の王を捕まえた時、名馬が負傷してしまいます。騎士は、名馬を王宮の門に横たえ、武具をゆるめて、別の馬に乗り替える準備を始めました。

名馬は、脇腹を下にして横たわったまま、目を開き、騎士を見て言いました。

「その馬では到底第7の陣営を破ることはできません。あなたは敵に殺され、残った王は七つの陣営を率いて一気にこの城を攻め、この都は滅びてしまうことになります。第7の陣営を打ち破って王を捕らえることができるのは、私の他にはおりません。どうか私を一緒に行かせてください」

騎士は名馬を立たせて、十分に手当てをして、その背に跨り、あっという間に第7の要塞を打ち破り、7人目の王を生け捕りにしました。

そしてお城に戻り、生け捕りにした7人の王をブラフマダッタ王に引き渡しました。

名馬は王の前まで来ると力尽きて倒れ、荒い息の中で言いました。

「王さま、どうか私の願いをお聞きください」

「なんなりと言うがよい」

「王さま、お願いです。あの7人の王たちを殺さないでください。二度と戦いをしないと誓いを立てさせ釈放してやってください。そしてこの度の栄誉は、すべて騎士にお与えください。それから最後に、これからも貧しい人々に施しをなさり、正義と平等によって政治をなさいますよう……」

名馬はそれだけ言うと、がっくりと首を落とし息絶えました。王は名馬の首を抱きかかえ、はらはらと涙を流しました。
それ以後、王の善政によってバーラーナシーの都はますます栄えたのでした。


というエピソードです。

名馬は、自分の国を守っただけでなく、7人の王と、その7つの国までも守ったのです。この名馬こそ、お釈迦さまの前世のお姿であったと説かれているのです。

そしてお釈迦さまは『ダンマパダ』という仏典にこんな言葉を残しておられます。

勝利者が勝ち取るものは敵意である。 
敗れた人は苦しんで萎縮する。
 心穏やかな人は、勝敗を捨てて安らかに過ごす。


 嫌なことを言われたらついカッとなって何かを言い返そうとする私がいます。そういう時は決まって、「相手を言い負かして自分が優位に立ちたい」という性根があります。勝ちとか負けとか、上とか下とかに囚われると、どっちに転んでも苦しみでしかない。心穏やかな人はどちらも捨てるんだ、とお釈迦さまは教えてくださいます。

この一年、心穏やかに過ごしたいと思います。

合 掌

(2026年 1月 5日 発行)

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