『ウサギとブッダ』 読む法話 日常茶飯寺 vol.37
新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
2023年は卯年です。仏典にはジャータカ物語というお釈迦さまの前世を描いた物語があります。そこにお釈迦さまがウサギだった時の物語がありますのでご紹介したいと思います。
むかしむかし、ウサギには、三匹の友だちがいました。サルと、山イヌと、カワウソです。
ある日の事、ウサギはふと、明日が精進日である事に気がつきました。
精進日というのは仏さまの教えを守って身を清め、困っている人にほどこしをする日の事です。
「明日、困っている人が来たら、せいいっぱい助けてあげよう」
みんなはウサギの意見に賛成して、家に帰りました。
次の日の朝、カワウソは食ベ物を探しに、ガンジス川の岸までおりていきました。
ちょうどその時、一人の漁師が七匹のコイをつかまえて草の中にかくし、もっと下の方へと出かけていったあとでした。
「おや? この魚は、誰の物だい? 持っていくよ」
カワウソは三ベんよんでみましたが、返事がありません。
そこでだまって、もらってくる事にしました。
山イヌも、食ベ物を探しに行きました。
山道を進んでいると、畑の番人の小屋から肉や牛乳のにおいが流れてきます。
「おや? この食ベ物は、誰の物だい? 持っていくよ」
山イヌは三ベんよんでみましたが、誰も現れません。
そこでやっぱり、もらっていく事にしました。
サルも森へ行って、マンゴーの実をたくさん集めてきました。
ところがウサギは、何も見つける事が出来ませんでした。
貧乏なので、家にはゴマも米も、何もありません。
「どうしよう? せっかくの精進日なのに。
・・・そうだ、もし誰かが食ベ物をもらいにきたら、わたしはその人に自分の肉をあげよう」
さて、このウサギたちの事を知った天上に住む神さまは、みんなの心をためしてやろうと思いました。
そこで神さまはお坊さんに姿を変えて、まずカワウソの家にやってきました。
するとカワウソは、
「さあ、お坊さま。今日は精進日です。どんどんめしあがってください」
と、コイ料理を進めました。
次に訪ねた山イヌの家では、畑の番人のところからとってきた肉や牛乳を出されました。
そして次に訪ねたサルの家では、マンゴーと冷たい水を出されました。
そして最後にウサギの家に行くと、ウサギはお坊さんに言いました。
「今日は、精進日です。ほどこしをしたくて、あちこちかけ回ったのですが、ごちそうは手に入りませんでした。
そこで今日は、わたしを召し上がってください。
けれど、お坊さまであるあなたがわたしを殺してしまえば、いましめを破ることになります。
そこですみませんが、火をおこしてください。
そうしたら、わたしは自分で火の中に飛び込みましょう。
焼けた頃に取り出して、召し上がってください」
神さまが火をおこすと、ウサギは火の中へ飛び込みました。
ところが火の中へ身を投げたというのに、ウサギはやけど一つしません。
「あれ? おかしいな」
不思議がるウサギに、神さまが言いました。
「信仰心のあつい、かしこいウサギよ。お前の徳が、のちの世の人にかたりつがれるよう、記念をしておこう」
神さまはそう言って大きな山をつぶし、そのしぼった汁で月の表面にウサギをえがきました。
その時から、月にはウサギの姿が浮かぶようになったという事です。
合 掌
(2023年1月5日 発行)