『氷の解けるまで(13話)』大前しでん小説
そこへ圭子が切り出した。
「それでどうなったの?」
「ああ、それからのことだな」
お茶の入ったコップを口にしそうになったが机の上に叩き付けるように戻しおもむろに話を続けた。
「その後は、圭子も知ってる松本の叔父と一緒に若僧の愚痴もそこそこに二時間ほど黙々と仕事していったんだよ。
時計を見ると四時も過ぎていたので一服でもと思っていた矢先に見覚えのない番号から着信が入った。
日頃なら私は絶対にとらない電話だがあまりにも長い着信音に嫌気がさして出てみると圭子が泣きながら電話してきてたんだよ」
「そうよね、間違いないわ。
それに買ったばかりのスマホだったから、あの時は気が本当に動転していて」
「事情を知った私は立町の国立病院に急行し変わり果てた母さんの姿と圭子の泣き顔を目の当たりした。
それで次にだが、状況が殆ど解っていない私に警察官が語り掛けてきたんだ。
「事故の加害者です」って私は唖然とした。
目の前には二時間前まで一緒にいたあの若僧がぬけぬけと一人前に涙を溜めて私の顔を見て驚きふためいて突っ立っていやがった」
「えっ!お父さん、それってことは母さんを歩道でひいたのはお父さんが二時間前に雇っていた若僧ってことなの!」
「あぁそうだ、圭子。申し訳ない。今日まで言えずにいてお前の顔を見るたび負い目を感じていた」
「何でお父さんが謝る必要があるのよ!そんなのおかしいわ」
「圭ちゃん、ここは少し落ち着いてさ」
「うん、解ってる。でも、お父さんは何も悪くないじゃない、人志もそう思うでしょ!」
「圭子、お父さんが悪いんだよ」
「いいえ、歩道をバイクで暴走した若僧と前を向いて歩いてなかった私が悪いのよ」
< 続く>