『氷の解けるまで(12話)』大前しでん小説
「それでもいいんだよ、解ろうとしてくれるだけで。
それで本題だがね。
一二年前から今のようにITが進化しデジタル時代の幕開けとなって宮大工の人材不足が顕著に現れた。
多くの若者は感性を磨き誠心誠意勤めることを嫌い、使命感より効率を極めた大量のコピー製品の生産に特化することを好み金銭的な富を求め満足感を優先するようになった。
大工のような匠なる職業は端に追いやられ優秀な人材はITに流れ職人稼業を選択肢から外して考える風潮に変わった。
そして、いい加減で熱意を持たない日銭目的の若僧を受け入れざるを得なくなった。
あの日は年末で初詣の参拝に是が非でも間に合わせようと徹夜して作業していたんだよ。
ある時、夜間高校の依頼から何とか見習いからと言うことで雇って欲しいと先生から懇願され使い者になるようなら僅かな期待を胸に若僧を受け入れることにした。
しかし、そいつときたら、ろくに計算も出来ず色入りの髪に穴の開いた耳たぶ。
ところ構わず携帯ゲームで悪態をついた。
仕事は常に指示待ちでやることなすこと間違いが多く遅刻の常習犯。
一週間ほどは辛抱したがその日はさすがの私も怒鳴り散らした。
その日奴は昼過ぎに来やがった。
あれほど指導していた!
作業に掛かる前には必ず手洗いし心身を清め祈りを捧げる。
そして神仏に遣うのだ。
それを奴は罵った。
お前なんかもうクビだ
二度と来るな!
バカ野郎が、先生にはこっちからいっておく。
辞めさせたってな」
そうすると、奴は大きく怒鳴り返しバイクに乗って現場から飛び出して行ったんだ」
人志は困惑によってか?お父さんが言っている話と圭子が懇願して止まない話とどんな関係があるのだろう?と考え込んでいた。
< 続く>